インタビュートップ > Vol.17 ゼネラルモーターズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 石井 澄人

ゼネラルモーターズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 石井 澄人

日本とGMの関係は古く、その歴史は大正時代にまで遡る。1915年、梁瀬商会(現ヤナセ)がキャデラックの輸入販売を開始。1927年にはGMが日本法人である日本ゼネラル・モータースを設立、大阪に生産工場までを有していたが1941年に撤退、戦後はふたたびヤナセが正規代理店としてGM車を手がけていた。現在、ゼネラルモーターズ・ジャパンではキャデラックとシボレーを輸入し販売店ネットワークを通じたビジネスを行っている。2010年にインポーター業務開始以来初の生え抜き日本人社長となった石井澄人氏に今後のGM車のビジネス戦略について話を伺う。

“ドメスティック”から“グローバル” へ、アメリカ車はいま変革期を迎えています。

F 世界的に見ればアメリカ車というのはまだまだドメスティックなものなんでしょうか? アメリカは世界2位、実質的には1位ともいえるマーケットですから、これまではあくまでアメリカ人に向けて作っている、というイメージが強くありました。

石井 いまはどんどん変わりつつあります。シボレーは世界115か国以上で販売していますし、数年前からアメリカで売れている数と、アメリカ以外の国で売れている数が逆転しました。ですからシボレーは、いまや立派なグローバルブランドといえます。

F そうですか!なんと。それは知らなかった。ところで、今日は先日発表したばかりのキャデラックのVシリーズを見せていただけるようですが、そもそもVシリーズとはどういったものなのでしょうか。

石井 アメリカでキャデラックレーシングという、レース部門があるのですが、VシリーズはそのレースのDNAを引き継いで開発されたモデルです。セダンのキャデラック ATSとCTSをベースに3.6リッターのツインターボを搭載したATS-Vと、6.2リッターのV8スーパーチャージャーを搭載したCTS-Vがあります。

F (CTS-Vのカタログをみて)一見普通のセダンに649馬力、855Nmって、こんなクルマ売っていいんですか(笑)。

石井 キャデラック Vシリーズは、もともとのベースの車両が前後の車両重量配分を50:50で開発されていて、ドライバーズカーとしての素地をきっちりと作りこんだ上で、そういったパワートレインを搭載しています。ですから、ベースがすでに高いキャパシティをもっているので、ハイパワーを楽しめるというわけです。

F ところで石井社長が20年間GMを見られてきて、最も印象に残っている出来事はありますか?

石井 すごくダイナミックな会社なので、しょっちゅういろいろなことが起きていますが(笑)。実はいまとても大きな変革期にあります。昨年の秋に発表された経営戦略の柱の1つで、ブランド戦略としてキャデラックに力を入れていこうという大きな流れがあります。そこで、キャデラックのヘッドクォーターをニューヨークのソーホーにリロケーションしたんです。今後はそこからプロモーションプランニングやマーケティング戦略をグローバルに発信していくことになりました。BMWやアウディといったヨーロッパのラグジュアリーブランドを経験した人なども採用して、ヨーロッパの視点から見たアメリカンラグジュアリーブランドであるキャデラックの良さってなんだ、ということを考え、それを将来のモデルに具現化していく予定です。本格的に稼働しはじめたのはこの数か月のことですが、すでにファッションブランドとのコラボレーションであったり、ダイナミックな動きが出はじめています。

F これまでにもキャデラックは、ブルガリとタイアップしたりと、先進的な取り組みはされていましたよね?

石井 そうなんです。キャデラック XLRという2シーターオープンのモデルでタイアップして、ブルガリの時計を装着したりもしていました。従来と違うのは中長期的な観点でやっていきましょうと、思い切ってデトロイトを離れたことです。やはりニューヨークはグローバルラグジュアリーブランドのスタンダードを作る中心的な場所でもありますので、そこに本社機能を移すというのは、アメリカならではの大胆さではないかと思います。

F なるほど。日本人もブランドが大好きですから、それはぜひアピールすべきですね。

石井 私たちがやりたいのは、もちろん商品を知っていただくことなんですが、キャデラックとはどういうブランドなのかということを、あらためて広く知っていただく必要があると思っています。ニューヨークの本社と今まで以上に連携を深めてやっていかなければいけないと気を引き締めているところです。

ちなみにキャデラックの本国のプレジデントはヨハン・ダ・ネイシンです。彼は以前インフィニティにいて、その前にはアウディジャパンの社長の経験もあります。ですから、日本のマーケットのことを良く知っています。これから非常に面白い展開をしていきます。

F あと、いまの日本のマーケットで考えたときに、ハイブリッドやディーゼルといった要素もブランド作りには必要かと思いますが、次世代のパワートレインの戦略についてはどうお考えですか?

石井 GMの戦略として、ハイブリッドや燃料電池、もちろんディーゼルにもすでに取り組んでいます。キャデラックに関して言えば、グローバルブランドとしてそれらは必要な要素だと思いますし、近い将来に向けて対応していく予定です。研究開発部門としては、デトロイトの中心部から20kmくらい離れたところに米国家歴史的建造物にも指定されているウォーレン・テクニカル・センターがあります。1マイル×1マイルの広さがあり、デザインドームの中でトランスフォーマーの映画のロケが行われたくらいの、世界で一番大きなテクニカルセンターです。ぜひこれからのキャデラックに期待してください。

F 楽しみです。でも個人的にはやはり新しいコルベットが気になります(笑)。石井社長は工場に行かれたことはありますか?

石井 もちろんあります。シボレー コルベットはなんと、専用工場で作っているんです。テネシー州のナッシュビルから北に1時間半くらい行ったところにあるケンタッキー州のボーリングリーン組立工場です。シボレー コルベットZ06はエンジンが手組なので、作った人のサインが入っています。

F へぇ〜、コルベットだけの専用ラインですか! 年間何台作っているんですか! それでも採算が合うんですか!

石井 大丈夫なんですよ(笑)。そして工場の近隣にナショナル・コルベット・ミュージアムがあります。歴代のシボレー コルベットが展示されているんですが、これはオーナーさんの出資で成り立っているんです。それだけ、アメリカ人にとってコルベットは憧れの存在なのです。この工場では、オーナーが引取にくれば納車もできるのですが、私が訪れたときはちょうどカリフォルニアからいらしたご夫婦の納車式をしていて、みんなに祝福されていました。

F いい話ですね〜。先日コルベットZ51に初めて試乗しましたが、想像と全然違った乗りやすい車でした。いい意味で驚きました。なにせ格好いいし、目立つし。そして、なんといってもロードバイクが載るし(笑)。燃費も想像以上に良くてホントに欲しくりました。安くなりませんか…?

石井 お褒めの言葉ありがとうございます。組立工場の従業員もみな誇りをもって働いています。頑張りますので、ヤマグチさんにもぜひ最新の7代目シボレー コルベットを購入いただいて、納車式に訪れていただきたいですね(笑)。

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インタビュアー:フェルディナント・ヤマグチ
コラムニスト。半導体・電子部品専門のマーケット・アナリストとしての顔をもつ一方で、コラムニストとしても活躍。「日経ビジネスオンライン」、「Tarzan」、「cakes」等に連載をもつ。トライアスロンを趣味とし、圧倒的なバイタリティでプライベートと仕事を両立。仕事の関係上誌面への顔出しはNGでマスクがトレードマークになっている。

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