インタビュートップ > Vol.18 テスラモーターズ ディレクター カート・ケルティー

テスラモーターズ ディレクター カート・ケルティー

テスラモーターズは2003年、アメリカのシリコンバレーに設立されたEV(電気自動車)専業メーカーである。2008年には初の量産車であるテスラ ロードスターが登場。2010年には日本法人であるテスラモーターズジャパンが設立され、東京・青山に日本1号店となるショールームを構える。また同年、トヨタがEVの共同開発を目的にテスラモーターズへ出資、パナソニックも電池の共同開発を開始するなど日本メーカーとの提携もはじまる。年々、存在感を増しているEVの急先鋒、テスラモーターズのカート・ケルティー氏にこれからの日本市場の戦略について話を伺う。

テスラモーターズ ディレクター
カート・ケルティー
1991年に松下電器産業(現・パナソニック)に入社。同社で15年間勤務し、そのほとんどを電池の開発に従事する。2006年にテスラモーターズに入社。松下電器産業時代も7年を日本で過ごした経験があり、大変な日本通である。
インタビュアー:フェルディナント・ヤマグチ

テスラが選ばれる理由は2つ。環境を大事にしていること、そして高性能であること。

フェルディナント・ヤマグチ(以下F) テスラは世界でも稀なEV専業メーカーだと思いますが、競合車はどういったモデルになるのでしょうか?

ケルティー そうですね。われわれの競合は、EVではなく、メルセデスやBMW、アウディといったプレミアムブランドです。例えばメルセデスであればSクラスを所有しているような顧客をターゲットにしています。

F テスラはなぜガソリン車ではなく電気自動車を作るのですか?

ケルティー 会社としてのそもそものミッションは、石油依存の社会から再生可能エネルギー主導の世界への移行です。自動車以外にも、今年の4月には家庭用蓄電池パワーウォールを発表しましたが、家庭用だけではなく、電力会社向けの蓄電ビジネスも展開しています。いずれも目指すところは同じで、蓄電すれば太陽光発電や風力発電をもっと有効活用できるようになります。

F ケルティーさんはもともとパナソニックにいたと伺っています。そこでテスラと仕事を始めて移籍されたのですか?

ケルティー 実はそういうわけではないのです。パナソニックにいた頃にこのテスラができたわけですが、最初は全然興味がありませんでした。理由はリチウムイオン電池を使っていたからです。リチウムイオンを使うEVメーカーはたくさんありましたが、どれも成功していなかった。電池メーカーとしては危ないから売りたくない。リチウムイオン電池をクルマに搭載することは、パナソニックだけではなくて、サムスン、LG、ソニーもすべての電池メーカーが反対していました。トラブルが起きれば、自動車ではなく電池メーカーの名前が取り沙汰されてしまう。私自身、アメリカの企業から何度もヘッドハンティングのアプローチを受けましたが、全部断っていました。そうした中で、テスラから話が来た時にあらためて具体的な話をいろいろ聞いて、これならいけるんじゃないかと思ったんです。テスラに移るときは、パナソニックのみんなはとても心配しました。15年間勤めてまるで家族みたいな関係でしたから。最終的には理解して送り出してもらいました。そして今度は立場が変わって、テスラからパナソニックに電池を買いに行ったんです。でも何年間も断られ続けました。

F それはクルマには載せたくないって、いまケルティーさんもおっしゃったじゃないですか(笑)。

ケルティー そうですね(笑)。まぁ、そういうことになって、いろんな会社にいきました。最初は皆ネガティブな反応でした。そこでやっと三洋電機が話にのってくれて、最初のロードスターができたのです。

F 三洋電機しか選択肢がなかったということですか?

ケルティー そうです。ロードスターを発売できたことで、もう一度パナソニックと話す機会ができました。相手は私の元上司で、じっくりと説明してようやく分かってもらえました。

F やはりアメリカでテスラが売れてきて、これは商売になるなという思いがあったんじゃないでしょうか?

ケルティー 実はその時はまだ売れておらず、テスラの販売実績はわずかなものでした。ですからパナソニックと一緒に事業をやりましょうという話になったとき、彼らにとってこの決断はかなりギャンブル的なものであったことは間違いありません。英断だったと思いますね。

F それが今となっては逆に電池メーカーからウチのを買ってください、と来るんじゃないですか?

ケルティー はい。我々は色々な国の電池メーカーの話も聞きますしテストもしています。比較したうえで、今はパナソニックがパフォーマンスも値段もトータルで見て1番ということです。

F 電気自動車にとって1番大事なものはやはり電池ですか?

ケルティー 私は電池畑の人間ですから、そういう答えになりますね(笑)。

F インバーターは?

ケルティー インバーターも内部で開発しています。充電器、モーターも自社開発です。モーターの場合は銅を買ってきて、ワインディングまで自社で行っています。全て自分たちでやりたいわけではなく、もともと作ってくれる会社がなかったのです。私たちは高いところを目指しており、ギアボックスも色んな会社にお願いしましたがどこもできなくて、最後は自分たちで作ることになりました。

F それは意外です。テスラはサプライヤーから色んな部品を買って、組み合わせている会社だと思っていました。

ケルティー 我々は他社に比べて、かなりバーティカルインテグレーション(垂直統合)を行っています。いまは多くを自分たちで作っています。もちろん、将来的にはもっと安く作れるところがでてくると思いますが、今は自分たちでやるしかない。さらに言えば、我々自身でテスラの性能を評価する設備も開発しています。なぜなら、市場にそのようなものがないからです。

F なるほど。世にはまだガソリン車向けの評価設備しかないのですね。

ケルティー たとえば、このテスラの450ボルト85kwの電池を評価したり、充放電できるような設備はないのです。
最初はある会社の設備を使ってみましたが、我々の求めるものとは機能が違っていた。それで自社で開発することにしたんです。

F さぞかし初期投資は大変だったでしょうね。

ケルティー そう!お金は結構使ってます(笑)。初期の頃はダイムラーからも、トヨタからも投資がありましたからそれでなんとか賄いました。

F それはやはりこれまでの自動車メーカーも何らかのかたちでEVとの関係を持っておきたいということだったのでしょうか?

ケルティー どうでしょうか。ダイムラーが出資したのは2009年のことでした。一方でスマートEVの電池パックや、メルセデス・ベンツBクラスのEVのパワートレインはすべてテスラが作って納品しました。トヨタのRAV4EVの駆動部分はテスラが作りました。

F へぇ〜そうだったんですね。RAV4EVはトヨタが作ったわけじゃなかったんだ。

ケルティー もちろんボディはトヨタが作ってましたよ(笑)。

F そういえば、テスラは今アメリカにギガファクトリーというリチウムイオン電池工場を作っていますが、あれはパナソニックとの合弁会社なのですか?

ケルティー 合弁ではなく、完全に別会社です。テスラが土地や建物などを用意して、パナソニックは設備などに投資しています。日本のパナソニックからも数百人が来ていますし、テスラからも人を派遣し、さらに現地でも数千人を採用し、合計で6,500人くらいの規模になると発表しています。

F ここではクルマ用の電池を作るのですか?

ケルティー クルマ用と蓄電用の両方です。それぞれの電池は全く同じでもなく、全く違うというものでもありません。用途が違います。例えばクルマ用の電池は、振動や熱にも耐える必要がありますし、ある日は100km走ったり、翌日は20kmだったりと、走行距離も毎日異なります。蓄電用の電池は1日1回放電しますし、耐久性が求められます。蓄電用であれば、放電の波数と充電の波数はそれぞれ固定ですが、クルマ用はスピードを上げると放電の、急速充電する際には充電の波数が高くなるなど変動しますから、そこに対応する難しさがあります。ですからリチウムイオンという材料は同じなのですが、いろいろな違いがあります。

F テスラの電池のエネルギー密度は世界的にみて最高レベルと呼べるものなんでしょうか?

ケルティー エネルギー密度は、Wh/L 又はWh/kgで測定しますが、我々の電池はクルマ用としてはもっともエネルギー密度の高いものを使っています。クルマはスペースにも重さにも限りがあります。密度を高めたことでテスラは500km以上走行できるのです。他社のEVで航続距離が短いものであれば、それはたくさんの充放電回数に耐える特性が求められます。我々はエネルギー密度が1番重要だと考え、他社では何度でも充放電できることを重視している。そのすべての特性を備えた電池というものはまだありません。

F いま日本ではテスラは何車種を展開しているのですか?

ケルティー 2008年に発売したテスラロードスターは世界で2,400台が販売されました。それが2012年に販売を終了しており、その後モデルSを投入しました。

F ということは日本ではいまモデルSだけですか?

ケルティー 世界でもそうです。ここ数ヶ月以内にはアメリカで先行してSUVのモデルXを導入予定です。日本への導入は遅れてしまいますが、既に北米では現車を見ずに買われた方がたくさんいます。実は価格もまだ発表していないのですが、来年の春生産分まで米国では売り切れの状態です。

F それはすごい。アメリカだとどこで売れているのですか?西海岸もしくは東海岸?

ケルティー 全米で売っていますが、1番売れているのはカリフォルニアです。その最大の理由は環境を大事にする人が多いということです。

F カリフォルニアには優遇税制があるとかではないのですか?

ケルティー そうではありません。それは東海岸でも同じ傾向で、ワシントンD.C.とかマサチューセッツなども同じ理由でたくさん売れています。

F それはつまり環境意識の高いインテリジェンスのある人が買われているということですか?

ケルティー 私はそうは言いません(笑)。たとえば私は、ベジタリアンで肉は食べないんです。その理由は環境を大事にしているからです。15年間ずっと肉を食べていません。多くの日本人の皆さんには理解できないと思いますが。アメリカでは全然不思議なことではありません。

F えーーー! おいしいのに。魚は食べるんですか?

ケルティー 魚は食べます。でも肉は食べない。肉を1パウンド食べたら2,000ガロンの水を消費したことになります。もったいないし、効率もあまりよくない。農薬使って植物を栽培して、それを牛が食べて・・・となるわけですから。

F 体のためではなく、環境のために食べない?

ケルティー そうです。ですから環境のためにテスラを買うことは珍しくありません。我々のお客様には環境を大事にする方が多いということです。その一方でパフォーマンスも他のクルマには負けていません。0-100km/hの加速は3.0秒です。これを達成したセダンは他にはありません。速いし、電池を非常に低いところに搭載してあるので、重心が低くなり、ハンドリングも良い。そしてデュアルモーターのAWDモデルであれば、すべてをデジタルでコントロールしているので反応が速い。素晴らしいパフォーマンスです。ですからお客様がテスラを選ぶ理由は2つ、環境を大事にしていること、そしてクルマが高性能であること、です。

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