PDIセンターのご紹介
~輸入車の品質維持のかなめ~
輸入車は、文字どおり世界各国から主に船便で日本まで輸送されてきますが、お客様のもとに納車される前に、日本国内で非常に厳しい品質チェックを受けていることをご存知ですか?
日本の港に陸揚げされた輸入車は、ディーラーに搬送される前に、インポーター各社の専用施設で独自の品質検査や、日本の保安基準などへの適合確認を行います。
このような作業は「出荷前点検:Pre-Delivery Inspection。以下、PDI」と呼ばれ、輸入車にとっては、「世界で最も厳しい」とされる日本の自動車ユーザーの期待に応えるために、欠くことの できない作業です。この作業を行う新車整備(PDI)センターの多くは、三河港(愛知県)、日立港(茨城県)、千葉港(千葉県)、横浜港(神奈川県)など の日本の主要港にあります。
今回は、知られざる「新車整備(PDI)センター」の姿と、品質確保に向けたインポーターの取り組みをご紹介します。取材に当たっては、フォルクスワーゲン グループ ジャパン(株)(愛知県豊橋市。以下、VGJ)のご協力をいただきました。
フォトギャラリー

豊橋インポートセンター全景
VGJ豊橋インポートセンターは愛知県の三河港(明海埠頭)の工業団地の一角にあり、1992年に操業を開始しました。三河港は、VGJ社のほかにもメル セデスベンツ、フォードグループ、トヨタ自動車などが拠点を構え、自動車輸入台数は15年連続で日本全国1位という、世界的にも有数の輸入自動車集積港で す。2003年には国際自動車特区にも認定されました。
VGJが豊橋に拠点を設けた理由は、本州の中心に位置し、国内物流に適したインフラ(高速道路、海運網)が整備されていること、専用岸壁が確保できるこ と、輸入基地の建設に必要となる広大な用地が確保できたこと、自動車関連産業が多く人材が豊富に確保できたことなどから、三河港が適していると判断された ためです。
VGJ豊橋インポートセンターは、37万平方メートル(東京ドーム約8個分)の敷地の中に、PDI業務を行う新車整備センター(VPC)のほか、純正部品 の保管・入出荷を行う中央部品倉庫(CPD)、メカニックの技術トレーニングを行うトレーニングセンター、車両保管ヤードなどの施設を備えており、主に、 フォルクスワーゲン、ベントレー、アウディ、ランボルギーニの4ブランドを取り扱っています。

カーサイロに描かれたブランドロゴ
新車整備センター(VPC)
では、PDIの仕事の流れを見てみましょう。
新車整備センター(VPC)では、約200名のスタッフが以下の工程で品質検査・整備・完成検査を行っています。
(1) 陸揚げ
海外の自動車工場で生産されたクルマは、自動車専用船で三河港(明海埠頭)まで運ばれます。到着までの日数は、ドイツのエムデン港から約1ヶ月、南アフリ カのポートエリザベス港から約25日、メキシコのアカプルコ港から約20日です。専用船は平均して月5回ほど来港し、一隻で約2,000~6,000台の クルマを運んできます。専用埠頭で陸揚げされた新車は、4500台収容できる保税エリアで通関手続きを経た後、VPCでの作業を待ちます。

保税エリアに並ぶクルマ
(2) プリワーク
必要に応じてガソリンを補給し、フルボディカバーの除去などを行います。

必要に応じヤードで給油
(3) 車両洗浄
1分間300リットルの流水(施設内で循環して再利用)で、輸送中のホコリなどによるボディの汚れを丁寧に洗い落とします。フルボディカバーやラップガー ドが施されているため、ほとんど汚れはありません。なお、かつて多くの輸入車に塗布されていた塗装保護用ワックスは、環境保護の観点から、現在ではVGJ が取り扱うモデルでは全て使用されていません。

洗車機で洗浄
(4) ローカルモディフィケーション
日本の国内基準などに従い、発炎筒や取扱説明書の備え付けやPLステッカーの貼付などを行います。
今では海外工場で日本仕様車としてライン生産されているため、かつて行われていた保安基準を満たすための識別表示マークの貼り付けやナンバープレート取り付けステーの取り付けなどは不要となり、作業はごく限られたものになっています。

洗車後の拭き取りを経てローカルモディフィケーションへ
(5) 外観検査
いよいよPDIの要とも言える検査ラインに入ります!
ここで、日本のお客様の厳しいニーズに応えるための徹底した品質チェックが行われます。
照明でボディを照らしながら、熟練した専門の検査員が1台ずつ丁寧に、ガラスやボディにキズや凹みがないかを入念にチェックします。わずかな不具合も見逃 さずマーキングし、専用の作業指示書に不具合の種類や部位を専用の管理コードで入力して、後工程の整備担当スタッフに確実にバトンタッチします。

検査員の真剣な眼差し
(6) マイナーリペア
室内のちょっとした汚れの除去や軽微な調整作業は、ここで完了させます。
検査ラインではあらゆるモデルが流れてきますが、整備スタッフは全てのモデルのパーツ取り付け部位・形状を完璧に記憶しています。カタログなどでは分からない細かなパーツの変更も見逃しません。

発見した問題点は作業指示書で申し送り
(7) 磨き・軽板金
一目ではなかなか気が付かないような細かなキズや軽微な凹みを修正します。プロの磨き職人により美しい外観に仕上げられます。

素人目には見分けられないほどのキズも見逃さない

磨き工程
(8) 機能検査
エンジンルームやボディ下部、ランプ、スイッチ類などの機能を点検します。習熟した専門の検査員がクルマに乗り込み、ドアの開閉検査やランプ類を実際に点 灯させたりしてチェックします。以前は、シャシーダイナモに載せて模擬的に実際の走行状態にして点検するドラムテストも実施していましたが、長年にわたる 企業努力による品質向上の結果、これもVGJでは現在行う必要がなくなりました。

機能検査では下回りもチェック
(9) 型式指定完成検査
ここでは、日本の道路運送車両法に基づく完成検査を行います。VGJでは現在、全ての完成車が海外の生産工場で事前に日本の法規に合わせた検査を受けて来るため、一部の項目だけ検査し、完成検査終了証を発行しています。

型式指定完成検査
(10) 最終検査
再度、内外装と装備品の最終チェックを行い、インテリア、エクステリアともに丁寧に確認・清掃を行います。

最終検査を終えたクルマ
(11) 保管・出荷
厳しい品質検査、日本基準への適合検査を終えた車両は、出荷されるまでカーサイロで大切に保管されます。VGJ豊橋インポートセンターには、5352台収 容可能な、インポーターとしては最大規模を誇る巨大な立体式カーサイロがあります。内部は14階建て、6クレーン12ライン構成となっており、搬入出は全 てコンピューター制御されています。

自動化されたカーサイロへの搬入出
正規販売店から発注されたクルマは、専用の自動リフトでカーサイロから運び出され、サイロ横の出荷ヤードで積載車に積まれ、全国のディーラーへ出荷されます。ディーラーに到着した後も、いま一度正規販売店で最終チェックとクリーニングが行われ、お客様に納車されます。

積載車に積まれ全国へ出荷される
パーツセンター/中央部品倉庫
VGJ豊橋インポートセンターは、敷地内にある中央部品倉庫でフォルクスワーゲン、アウディ、ベントレーの純正部品のパーツ保管・出荷管理も行っていま す。延べ床面積約19,000平方メートルの部品倉庫に、63,000種類以上の部品が保管されています。2007年には「ET2000」というドイツ VWAG本社と同じ管理システムを導入しました。
これらの純正部品は主にドイツのカッセルにあるVWAG本社の中央部品倉庫から輸入され、名古屋港で陸揚げされた後、豊橋インポートセンターまで陸送されます。平均で1日に40フィートコンテナ3~4本、約1000アイテムが入荷します。

パーツセンター中央部品倉庫内部
○入荷管理
パーツセンターの倉庫に純正部品が搬入(入荷)されると、入荷ラベル(バーコードラベル)が貼られ、アイテムや数量、品質に問題がないか確認されます。そ して万一入荷品に不具合が発見された場合には、不具合情報がドイツVWAG本社の中央倉庫にフィードバックされ、改善措置が行われます。

入荷品の検品作業
○スペアキー
パーツセンターでは、スペアキーのカットも行っています。スペアキーは不正防止のために厳格に管理する必要があり、ドイツVWAG本社以外では限られた国 にしかキーカットが許されていません。そして、日本はその中にあってVWAG本社の厳格な基準を満たしているため、キーカットが許されている数少ない海外 拠点のひとつとなっています。これにより、日本ではお客様をお待たせすることなくスペアキーをお渡しすることができます。

限られた国にしか貸与されないキーカットマシン
スペアキーカット専用の作業室は、ドイツVWAG本社の厳格な保安基準に従って、出入口の電磁ロックや監視カメラなどの様々なセキュリティが施されていま す。さらに、キーカットマシンはドイツVWAG本社のコンピューターとオンラインで結ばれ、自動でカットが行われる仕組みになっています。但し、古いモデ ルで使われている外溝タイプのキーは、熟練スタッフが手作業でカットしています。

外溝式のキーは熟練スタッフが手作業でカットする
○立体自動倉庫
パーツセンターの倉庫には様々な自動化設備が導入されています。その中でもひときわ目立つのが、高層の立体自動倉庫(AS/RS)です。この立体自動倉庫 には入出庫レーン3本と取り出し専用レーン2本があり、約4200のパレット(梱包単位)を格納することができます。さらに、日本のパレットが通常1.1 メートル×1.1メートルであるのに対し、ドイツのパレットは1.3メートル×1.7メートルと大きいため、この倉庫はレーンの間口やリフトもドイツのサ イズに対応できるよう設計されています。

立体自動倉庫から搬出される純正部品
○出荷
パーツセンターでは、全国の正規販売店(フォルクスワーゲン正規販売店は249拠点)から1日当たり9200件以上のオーダーラインを受注し、その日のう ちに出荷しています。このため、この倉庫で働くスタッフ(約120名)は、正確かつスピーディな作業を行うことをモットーに日々取り組まれています。

全国の正規販売店の注文に応じて商品を仕分ける
パーツセンターが毎日受注するオーダーの多くは、サイズが小さく小ロットの部品です。これらの部品に対して、正規販売店のオンライン端末から刻々と注文が入ります。倉庫ではこれらの注文に基づいて、順次部品を出庫し、出荷先ごとに仕分けを行って、箱詰めします。
この作業を正確かつスピーディに行うために、倉庫ではコンピューター制御された「仕分け棚」を導入しています。倉庫のスタッフが出庫した純正部品のラベル のバーコードを設備のスキャナーに読ませると、該当する出荷先の仕分け棚のランプが点灯します。こうすることによって、仕分け棚の場所が瞬時に分かり、正 確な仕分けが可能となります。

女性スタッフにより丁寧な梱包作業が行われる
正規販売店からの注文は、週単位の「定期オーダー」と、毎日の「緊急オーダー」の2種類があります。これらの注文に対して、パーツセンターでは多くの女性 スタッフが活躍し、丁寧かつ迅速に作業を行っています。また、パーツセンターが即座に出荷できる割合、即ち「即納率」は98.5%と極めて高いレベルを維 持されています。このようにパーツセンターの活動は、アフターサービス部門の縁の下の力持ちとして、顧客満足度の向上に寄与しています。
品質向上の取り組み
VGJ豊橋インポートセンターは1992年に操業を開始しました。しかし、当初は日本のユーザーが求める品質レベルの高さがドイツ本社に理解してもらえず、大変苦労されたそうです。
わずかなキズでも日本のお客様には納得していただけません。しかし当時はデジカメもEmailもなく、どんなキズが問題となるのか、本社に伝えることが困 難でした。写真をファックスしても、真っ黒に印刷されてしまい、判別できなかったそうです。逆に、「日本はやり過ぎているのではないか?」、「なぜそこま でやらなければいけないのか?」と聞かれてしまう状況でした。

しかし、こうした品質感覚のギャップは、VGJの粘り強いアプローチの結果、少しずつ埋められていきました。VGJスタッフが海外の生産工場に赴いて、実 車の生産車を前に現地スタッフに説明して見せることで、徐々に理解され改善されるようになりました。こうした交流が密になるにつれて、ドイツVWAG本社 や世界各国にある生産工場も日本側の主張に耳を傾けるようになったのです。
現在では、世界中の生産工場の品質担当スタッフが来日し、VGJ豊橋インポートセンターで品質に関する研修を受けたり、新型モデルの生産が始まる前には、 品質改善のためにVGJスタッフが生産工場に出向きミーティングを持ったり、また、生産開始時直後は、生産拠点から豊橋インポートセンターに常駐して適宜 工場に改善提案を出すなど、「VGJ(日本)のお墨付き」を求められるまでになりました。世界の日本向けの生産を行う工場には、VGJの品質基準書が翻訳 され掲示されているとのことです。
このように海外工場の生産品質が急速に向上した結果、VPCでの整備も簡素化できるようになりました。その一環として、アウディでは、3年前からほぼ全てのクルマにフルボディカバーを採用しています。

フルボディカバーされたアウディ
これは、生産工場でラインオフしたクルマ全体を専用のカバーで包んでしまうもので、これにより輸送ダメージや汚れが確実に防げるようになりました。
より高品質のクルマをより迅速に提供できるよう、海外メーカーと日本のインポーターによる品質への不断の努力が続けられています。今後も一層の取り組みが期待されます。

取材協力いただいたVGJ社(豊橋本社ビル)
本記事の取材は、2008年1月に行いました。

